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著作権保護期間の延長について
去る11月18日、鳩山由紀夫首相は、日本音楽著作権協会(JASRAC)の70周年記念祝賀会において、これまで作者の死後50年までとされてきた著作権保護期間を、死後70年に延長するよう、最大限の努力をすると発言されました。
続いて川端達夫文部科学相も、70年はある種の世界標準であり、延長を目指して課題に取り組んで行きたいとのべられました。
報道でこの発言に触れて、その真意を推し量りかねて当惑し、次第に暗澹たる気持ちがわき上がってくるのをおさえられませんでした。
私は、青空文庫と名付けた電子図書館を育てる試みに、1997年から加わってきました。
その中で、ある時期までは作者の権利を守り、それが過ぎた後は、誰もが作品にふれやすくし、新しい創作の土台としても利用しやすくしようという著作権制度にこめられた期待が、インターネットを得て、大きな成果をあげ始めたことを、繰り返し実感してきました。
保護と利用の促進は、著作権制度の両輪です。
そのバランスをどう取るかについて、国際的な著作物保護の枠組であり、日本も参加しているベルヌ条約は、作者の存命中に加えて、死後50年までの保護を原則としています。
これを死後70年までとすることで、果たしてなにが得られるでしょう?
しばしば主張される、創作の意欲を高めることにつがなるのでしょうか?
表現は、今生きてあることの証です。みずからのいのちが絶えて50年が過ぎた後、さらに20年分の保護を約束されたとしても、それがつくることの意欲を高めるとは到底思えません。
一方、作者の死後50年を過ぎた作品は、広くみなで利用できるようにしようという制度にこめられたもう一方の期待は、インターネットを得て、大きく花開き始めました。
例えば、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)では、延べ約740名のボランティアによって入力、校正された著作権の切れた作品が、2009年11月現在で、8500以上、公開されています。
来年の元日、2010年1月1日現在で、著作権保護期間が死後70年に延長され、すでにいったん著作権切れとなったものにもさかのぼって適用されたとすれば、青空文庫は公開作品のおよそ半分を失います。
広く利用されている、太宰治も坂口安吾も、中島敦、島崎藤村、菊池寛、新美南吉、海野十三、堀辰雄、横光利一、折口信夫、林芙美子、中里介山、北原白秋、斎藤茂吉、織田作之助、原民喜、与謝野晶子、宮本百合子、三木清等も皆、読めなくなります。
過去にさかのぼっての適用がなかったとすれば、これらの作家は生き残ります。
ただし、その後20年をかけて、青空文庫は確実に、やせ衰えて行きます。
保護期間死後50年であれば、今後20年間に公開作品リストに加えられたはずの小川未明、柳田国男、吉川英治、正宗白鳥、野村胡堂、尾崎士郎、三好達治、佐藤春夫、中勘助、梅崎春生、江戸川乱歩、谷崎潤一郎、高見順、米川正夫、山中峯太郎、小宮豊隆、鈴木大拙、亀井勝一郎、山本周五郎、壺井栄、時枝誠記、笠信太郎、子母沢寛、広津和郎、村岡花子、木々高太郎、長谷川如是閑、伊藤整、獅子文六、西條八十、大宅壮一、三島由紀夫、深田久弥、内田百間、高橋和巳、志賀直哉、平林たい子、広瀬正、川端康成、椎名麟三、大佛次郎、サトウハチロー、浜田広介、花田清輝、江口渙、梶山季之、金子光晴、きだみのる、林房雄、香山滋、檀一雄、舟橋聖一、福島正実、武者小路実篤、武田泰淳、竹内好、今東光、稲垣足穂、海音寺潮五郎、野尻抱影、平野謙、柴田錬三郎、山岡荘八、花森安治、福永武彦、中野重治、植草甚一等を、青空文庫は迎え入れられなくなります。
鳩山首相、川端文科相が最大限の努力を傾けて進められるという保護期間の死後70年への延長には、社会の誰もが容易に利用できる20年後の電子の書棚から、谷崎潤一郎を、山本周五郎を、三島由紀夫を、川端康成を、奪ってしまうという側面があることに、どうか目を向けてください。
国民の広範な支持を得て政権交替を果たし、日本の再構築をになう民主党政権が、インターネットに育ち始めた万民が共用できる文化の宝箱を、率先してやせ衰えさえる選択を行うとすれば、この社会の再生に期待し、自らもその育成に力をふるおうとする者が味わう失望は、いかばかりのものとなるでしょう?
民主党の皆さんに、心よりお願いいたします。
「保護」とならぶ著作権制度のもう一方の柱である「利用の促進」にも目を向け、死後70年への保護期間延長問題について、党内で広く論議していただけないでしょうか?
その上でどうか、インターネットを活用した文化共有を促進し、この社会に生きる人々の心の足腰を強める側に政策の舵を切ってくださるよう、お願い申し上げます。